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2月24日  あなたと二人

雨の夕方のことです。
街は冬の冷たい雨に凍えていました。
商店街を外れると、街灯でやっと人の気配を感じる暗い通りが続きます。

買い物を終えた主婦が傘を差して自転車をこいでいました。
3,40代の主婦のバイタリティは、背中に「家族のため」と書いてあるように見えるほど、力強く踏み込まれているペダルに現れていました。
雨にぬれた車道に彼女の残した車輪の跡は、暖かなダンランヘと続いているようです。

駅から団地へとつながるその道なので、家路を急ぐ会社帰りの男性の自転車もみられます。
家のドアを開けた途端に「お帰りなさい」の暖かな声で迎えられるといいね・・・と、思わず彼の疲れた後姿につぶやいてしまいました。

そんなありふれた自転車群の後ろを、速度の違う自転車が行きます。
前カゴにはスーパーで買い込んだいっぱいに詰め込まれたレジ袋が、後ろの荷台には結わき付けられたトイレットペーパーが雨にぬれています。
左手に女性用傘を差し前かがみになってペダルをこぐその様子は、全身の力で片足ずつ踏み込む命がけのものでした。
自転車の主は、70代と思われる年配の男性。
傘はその男性の奥さんのものと明らかに分かります。
雨の中あの荷物だけでも力仕事かと思いそうですが、彼の命がけはそれだけが理由ではありませんでした。
後ろの荷台にしっかりとしがみつく奥さんの手があったのです。
自転車の右側に車椅子に乗った年配の女性がいるのです。
ご主人のこぐ自転車にしっかりとつかまることで、彼女の車椅子は一緒に移動をしているのでした。
あたかもサイドカー付のバイクが低速で走っているかのように。

奥さんはご主人を信頼しきっている。
ご主人は自分がいなければ・・と全力で奥さんを守ろうとしている。
そんな2人に冬の雨は冷たすぎます。
寄り添って生きる2人の象徴のような2つの華やかな色合いの傘は、揺れながら小さくなっていきました。

by keshi-gomu | 2012-02-24 23:52 | MIKANの部屋