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12月24日  【童話】カラスの王様 17

夕日が昇っていく。
赤塚富士夫のギャグ漫画のようだが、逆さ吊りにされたカラスの王様には実際に目の前の光景だった。

「美しすぎて、涙が出るぞ」

そう言いつつ自分の姿を見ながら思わず苦笑いをした。
「マンションのベランダに吊り下げられている『烏の人形』みたいじゃないか」
烏に似せた黒い塊やら、目玉だけのお化けやら。
そう言えば人間は烏除けの人形をたくさん考案してきた。

畑の真ん中の案山子の肩に、人間だと思い込んで恐る恐る止まったのは誰だったっけ?
あの純粋だったカラスの王様も立派に成長(?)したものだ。
人間の作った『烏の人形』が分かるようになったとは。

何度となく目にしてきた夕焼けが、今日はやけに目に染みる。
この輝きが暫くすると暗い闇に吸い込まれることも王様は既に知っていた。
夜が来る前に。
もう一度、網から抜け出そうともがいてみた。
だが力を入れるたびさらに網が締まってくるような、ただそんな気がしただけだった。

あんなに暖かな午後だったのに。
夜は打って変わって冷たい空気が辺りを支配する。
王様は、吊り下げられたまま幾時間もただそこにいるしかなかった。

体力が奪われていく。
だんだん意識まで薄れていく。
「このまま僕は『烏の人形』になるんだろうか」

貨車に乗って走ったって。
ビルにぶつかり落下したって。
野良猫と死闘を演じたって、不死身だった王様じゃないか。
弱気になってどうするんだ・・・

街にはクリスマスソングが流れていた。

今日はまさにクリスマスイブ。
彼にはそんなことは知る由もなかったが、風に乗ってこの海辺にも届いてきた懐かしい音を聞くともなしに聞いていた。
その音がBGMのように、カラスの王様を眠りに誘う。
いつの間にかウトウトとし始めた。
眠りに落ちるその意識の片隅で、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。

「キューちゃん、どうしたの?」
懐かしい声だった。
あの楽しかった日々の思い出が無数にフラッシュバックされてきた。

「翔・・・」

次第に冷たくなってきた『カラスの王様』の黒い翼に、白いものが舞い降りる。
今夜はホワイトクリスマスか・・・

                    【つづく】・・・I'm dreaming of a White Christmas
12月24日  【童話】カラスの王様 17_d0012611_1235432.jpg

by keshi-gomu | 2011-12-24 20:00 | 【童話】カラスの王様