12月21日  【童話】カラスの王様 12

「これは凄いな」
荒らされた事務所を見渡して、パパが言った。

「キューちゃんがいない。キューちゃんがどこかへ行っちゃったよ」
翔は今にも泣きそうな面持ちで震えていた。

戦場の痕跡は、そこにいなかった者にもリアルに想像がつくものだった。
「この足跡は猫だな。猫の毛も飛び散っているし」
「キューちゃんは野良猫にやられたんだな」
「えっ?キューちゃん、猫に食べられちゃったの?」
「食べられてはいないよ」
「それでも傷ついているんでしょうね、キューちゃん」
「可哀相に」
ママがため息交じりで言った。

「帰ってくるよね。キューちゃん、帰ってくるよね。お家に」
祈るように繰り返す翔の言葉に、パパもママも胸が迫る想いでいた。

「夜になって、どうしているのかしら?夜、鳥は目が見えなくなるのよね」
「野犬に噛み付かれたらひとたまりもないよな」
「車に轢かれたりしてないかしら」
「そんなぁ。キューちゃんは大丈夫でしょ?飛べるんだもん。大丈夫だよね?」

「ん~」
パパは思わず、言葉を呑んでしまった。
今の翔に言えないことがあった。
実はパパは、キューちゃんの足の紐が解けてしまっても開け放たれた事務所の入り口から飛んで行けないようにと、キューちゃんの羽を数枚切り落していたのである。
翔に『今のキューちゃんは飛べないんだよ』とは言えなかった。
同時に、こう言う結末になるのだったらキューちゃんの羽を切るのではなかったと後悔もしていた。

「翔、探しに行こうか」
「そうね、夜、鳥は見えないんだもの。飛んで行ってないわよ。きっとまだ近くにいるわ」
そう言ってはみたものの。

パパもママも、見つかる可能性が少ないとは思っていた。
飼い犬なら、名前を呼べば向こうから走ってやってくる期待は出来る。
だが、野生の烏を1ヶ月ほどペットにして、どれだけ我々になついたものか。
映画のように、キューちゃんが我々を見つけて飛んで帰って来る・・とは、流石に期待は出来なかったのだ。
それでも、もしどこかで息絶えているのなら、抱えて帰ってやりたいと思った。

そんな大人の思いとは反して、翔の心は期待で膨らんだ。
「そうだね、迎えに行こう。キューちゃんはお家が分からなくて困っているんだよ」
「キューちゃんを探しに行こう。パパ、ママ。探しに行こう」

                                   【つづく】・・・・探しに、
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by keshi-gomu | 2011-12-21 06:08 | 【童話】カラスの王様