12月15日 【童話】カラスの王様 6
「ママ~、キューちゃんが動いたよ~」
『キューちゃん』とはなんだ?
それを言うなら『カーちゃん』だろう。
どのくらいの時間、眠っていたのだろうか。
カラスの王様が目を覚ますと、まるで魔法にかけられたような別世界が広がっていた。
空も太陽も見えないのに、なんて明るいんだ。
今は昼なのか?
まぶしい電灯の光の下で、目に映るもの全てが初めて見る不思議なものばかりだった。
ところで、なんで僕はこの窮屈な棒の箱の中にいるんだ?
「出してくれっ、出してくれぇー」
彼は自分の置かれた状況を理解できないでいた。
「ママ、ママ、キューちゃんがバタバタいってるよ」
「よかったわね、元気になったのね」
「うん。キューちゃん、お腹空いているんだよ」
「そうね、ご飯あげましょうね」
「あ、それ、キューちゃんが食べていたご飯だね」
「そうよ、キューちゃんが大好きだったご飯よ」
人間の大人が何やら持ってきて、カゴの中に入れた。
カラスの王様は、目の前に出されたものが食べ物だとは思えなかった。
なんだ?この気持ち悪い緑色の塊は?
そう思いながらも確かめるように1つ口に入れてみた。
しかし、呑み込めない。
「うっ、まずいっ」
八名信夫ばりに、大きな声で言った。
「わぁ~、キューちゃんが『カー』って鳴いたぁ~」
そりゃそうだろう、カラスなんだから。
「ご飯食べないね。僕のパンをあげてもいい?」
「食べるかしらね」
今度は人間の子供が、パンをカゴの隙間から押し入れる。
王様は、何やらいい匂いにつられて、疑いもせず思わずパクついた。
「こりゃなんだ?うまいっ」
同時に、彼の記憶がよみがえってきた。
そうだ、僕は腹が減っていたんだっけ。
そうだよ、あの林までもうひとっ飛びだったんだよ。
痛た・・たたた。肩が痛いぞ。あ、・・・
(烏に肩があっただろうか)
なんだか大きなものにぶつかったんだ。
夕焼けに染まったあの美しい林の輝きが、走馬灯のように浮かんできた。
林が遠くへ行ってしまった・・・
そんな思いがして、なんだか涙があふれてきた。
カラスの王様は思った。
「それでも、こいつはうまい」
「ママ、食べたよ。コロッケパン。キューちゃんがコロッケパン食べたよぉ」
【つづく】・・・つもり
by keshi-gomu | 2011-12-15 20:20 | 【童話】カラスの王様